2011/07/07

「しみじみと歩いてる」(島田暁監督)


島田暁監督「しみじみと歩いてる」(2010年、77分)を観ました。
「しみじみと歩いてる」は、島田監督が、関西レインボーパレードを通して出会ったセクシュアル・マイノリティたちを、2006年から4年間追ったドキュメンタリーです。

レズビアン、ゲイ、MtFトランスジェンダー、FtMトランスジェンダーそれぞれに取材し、パートナーとの恋愛、仕事場や人間関係における葛藤、家族へのカミングアウトといった、日常の苦しみ・喜びが記録されています。

関西レインボーパレードで、華やかに仮装して、力強く行進する様子は、とても新鮮でした。
パレードの終点で、参加者全員が空に風船を飛ばす場面には、感動します。
パレードという<ハレ>(非日常)の顔と、日常生活のコントラストによって、セクシュアル・マイノリティの素顔がより立体的に描かれています。


MtFトランスジェンダーである黒田綾さんに密着したパートは、観ていてすごく辛かったです。
男性として生きてきて、結婚もしていたけれど、破たん。
「死ぬか生きるかまで悩んだ」上で、女性として生きることを選択した綾さん。
現在は、ホルモン療法を受けているため、乳房があります。

綾さんが、トランスしてから初めて兄に会い、カムアウトした直後の記録は、衝撃的で、泣きそうになりました。
綾さんの「死ぬか生きるかまで悩んだ」という言葉に対して、兄は「その”死ぬか生きるか”の時に戻れ」と言います。
兄にとって、綾さんの女装は「遊び」としか理解できないのでしょう。
兄との面談後、綾さんが「診断書を見せれば、楽だったかも」とつぶやいた言葉に、ハッとさせられました。
ホルモン療法を受けているのだから、診断書を頼めば、もちろん出してくれます。
診断書を見せて、女装は趣味・遊びではなく、病気・障害なんです、と説明した方が、兄は理解してくれたかもしれない、という意味でしょう。
でも、綾さんは診断書を見せて、GIDだから、と説明することが嫌だった。
わたしは今まで、トランスジェンダーの中で、医学的な診断を受けた場合がGIDと呼ばれると理解していました。
綾さんのドキュメンタリーを観て、GIDと診断されることを拒む・嫌がるトランスジェンダーの気持ちが、少し分かった気がします。
自分の状態を、病気・障害として見るのではなく、対等な一人の人間とし見てほしい。
憐れまれたくない。
そんな気持ちがあったのでは、と思います。


ドキュメンタリー映画では、<見る側>と<見られる側>という非対称的な関係に、日常を覗き見する後ろめたさや、息苦しさを感じることが多いです。
しかし「しみじみと歩いてる」は、ゲイである島田監督の視点でまとめられているため、<見る>/<見られる>関係が固定化されず、時には監督自身も<見られる>立場となります。
特に、綾さんの生活に密着したパートでは、島田監督と綾さんの間に、<見る側>(撮る側)と<見られる側>(撮られる側)を超えた信頼関係があるように、感じました。

映画鑑賞後に、島田監督と実際にお会いして、お話することが出来て、とても良かったです。
今後も、島田監督の活動を応援したいです。



★島田暁監督の公式ブログ「フツーに生きてるGAYの日常」


鑑賞日:2011年7月3日、第6回青森インターナショナルLGBTフィルムフェスティバルにて